日本の食料自給率をどうにかしたいという思いで起業

ビジネスコネクトふじのみやで、パッケージ制作のための「小規模事業者持続化補助金」とホームページ制作のための「小規模企業経営力向上事業費補助金」の申請をサポート。

  • アドリ株式会社
  • 業種:農業
  • 2017年2月

起業の経緯

私は奈良県出身で、もともと大学では量子力学を勉強していたんです。でも単に物理が好きなだけでしたので、就職のことは何も考えていませんでした。当時は環境問題が社会問題として取り上げられていた時代で、日本の食料自給率への影響が騒がれていました。それを何とかしなければならないなと考え始めたのが農業を始める最初のきっかけだったと思います。

とはいえ自分が農業を始めたからといって食料自給率は上がらない。問題を解決するには農業の業界に優秀な人材が入ってきて、彼らが農業を成長産業に変えていってくれれば食料自給率は勝手に上がっていく、と考えました。「農業は稼げる」と思ってもらえば優秀な人材はバンバン入ってくるんじゃないか、と。
そこで、農家の方の所得を上げるお手伝いをしようと考えて、農家に資材を販売しながらコンサルティングやアドバイスを行う会社に就職したんです。土壌分析をして作物の品質をあげながら、他のコストを下げて収益をあげるというような内容で、効果は上がるものの自分の手の届く範囲しかカバーできないことがジレンマとしてずっとありました。もっと大きな歯車を回すにはどうしたらいいか。自分の思う農業が儲かる世界はどうやって作ればいいのか。

考えたのが、俳優の木村拓哉さんがドラマで演じた職業が、若者のなりたい職業になることに準えた、言ってしまえば「キムタク理論」を農業にも当てはめてみたらどうかと。ちょうどその頃、農業で会社を興した若者がチラホラ出始めたこともあり、自分も生産側にまわらないと歯車は大きくならないと考えて、会社を辞めて起業しました。

でも農業に関わってはいたものの、生産するのは初めてで。
まず、農地が簡単には手に入らない事をその時初めて知り、1年間研修を受けて農地取得の許可をとりました。
研修を受けながら地元の奈良県で農地を探しましたが、なかなか条件の良い農地は借りられず。それでも探し続けていた時に知り合いから富士宮市の農地を紹介されたんです。五反分(約5,000㎡)の農地で、そこを拠点にスタートすることになりました。

「富士の雅ネギ」について

アドリ株式会社では「富士の雅ネギ」というブランドの葉ネギを生産しています。
大きく分けて2つの「富士の雅ネギ」があって、一つは美味しいけど規格外なものと、流通に適した業務用のものです。

農産物の流通にはセオリーがあって「美味しいものは流通しない」というものです。経済的な合理性を追求した結果、実は美味しいものは消費者以外あまり求めていないんです。流通業者は、見た目が良くて大きさもそろっていて棚持ちが良い等の流通に適したものを多く扱いたいし、生産者にとっては流通業者が喜ぶものを作らざるを得ないという事情があります。

そんなわけで「富士の雅ネギ」をたくさんの人に使ってもらうためには、流通に乗せる以外の特殊な販売戦略が必要になるのですが、それには資金が必要になる。そこで、美味しいけど規格外の「富士の雅ネギ」を主力として考えていますが、それとは別に薄利多売だけど業務用として流通に適した「富士の雅ネギ」も作って毎日出荷し、全体の利益を底上げする事も行っています。

富士の雅ネギの強みは、一年中同じ産地で出荷できることがです。どういう作物でも一つの産地で通年切らさずに出荷し続ける事ってすごく難しいんです。1年通して定番メニューを変えなくて済むので飲食店さんには使いやすいというメリットがあります。
これは富士宮ならではというところもあります。富士宮の豊富な水資源と高低差による気温差があって、ネギにとっては好条件なんです。

富士の雅ネギは冬場に焼いたとき一番甘みが出ます。ネギなので甘みの種類は違いますが、以前計測した時は糖度19度で、果物で言えばブドウくらいの甘みなんです。
事実、料理人の方や素材にこだわっているシェフの方には一度食べてもらって「これが欲しい」と言っていただき、使ってもらっています。

会社として目指すゴール

アドリ株式会社の目指すところは日本の自給率の増加です。「富士の雅ネギ」はその目的のための手段だと考えています。

自分の中では、農業の生産者が増える事よりも優秀な人材が入ってくる業界になってほしいと考えています。実際に今は生産者は減っているものの耕作面積はそれほど変わっていません。20代で果物を広大な面積で育てて輸出までやっている方もいます。そういった方々が全国で少しづつ出始めてきているので、その一翼を担えればと考えています。

今の世の中、野菜の価格は生産する側からしたら相当安いと思っています。高くするには野菜の価値をあげるしかない。そこで今考えているのは海外への輸出と、グルメ目的の観光客を見込んだ地元の経済の活性化です。

具体的には、地元のレストランと組んで、ネギをふんだんに使った商品開発を行ったりして焼きそばに次ぐ県外にも発信できるご当地グルメを生み出そうとしたり。

輸出の方でも色々考えていて、青果物として輸出するためには空輸に限られてしまいますが、加工したものならそのコストも抑えることができる。
今は加工したネギ焼きを海外のスーパーに並べることができないか、というのを色々試行錯誤しつつ、様々な機関と連携しながらアジアのマーケットを目指しているところです。
輸出がうまくいけば「富士の雅ネギ」の生産者も増えてくると思います。ただ、生産者が増えると価格も下がってしまうので、販路を拡大する未来を作っていって生産者が増えてもやっていける仕組みを作っている段階です。

支援内容と支援を受けた感想

ビジネスコネクトふじのみやには、令和2年に商品パッケージを作るための資金として「小規模事業者持続化補助金」の申請と、令和5年にはホームページを刷新するために、静岡県の「小規模企業経営力向上事業費補助金」の申請をサポートしてもらいました。おかげさまで両方とも交付を受けることができています。

農業をやっていると、状況報告とか新しい機械を買った後の書類とか、常に書類を作ることが多くて、今回の申請に必要な書類もそこまで苦労はしなかったと思いますが、でも交付されるところまで大きなミスもなく進めたのはビジネスコネクトふじのみやのサポートが欠かせなかったと思っています。

将来的には、輸出も視野に入れて製造工場を拡大することも見据えてます。OEM等でスモールスタートして大きくできるタイミングを検討していきたいです。

やりたい!だけではない大事な「3つの輪」

やっぱり大事なのは、「やりたいこと」と「やれること」「求められていること」の3つの輪が重なっている事だと思います。「やりたいこと」だけだと、ただのアーティストになってしまって続けていくことが難しくなる。自分が見たケースだと、農業を始めてみたものの、5年も経つと食べていけなくなって辞めてしまうような人が多いですが、ちゃんとそこに「自分にできるのか」と「人に求められているかどうか」が入っているかが大事なんです。

「やりたい」という思いだけなら家庭菜園でいいし、そこに仕事として利益を出すことができるか、事業を広げていけるかという設計も必要だと思っています。

前職の「農業アドバイザー」の知識は今も役に立つことが多く、土壌分析から機械の修理までできるので、そこは強みだと感じています。
あと、もともと理系なのでわからないことをほったらかしにせずにとことん調べて自分のものにしないと気が済まない性格なので、そういった性格が向いている仕事なのかもしれないですね。

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