北海道から富士宮へ、乳製品の魅力を追い続けたチーズ工房

ビジネスコネクトふじのみや(以下、ビジコネ)にて、経営力向上事業費補助金の申請、静岡伊勢丹にある商工会のチャレンジショップへのイベント出店をサポート。
- 株式会社七富乳業
- 業種:乳製品製造・販売
- 創業:2021年
乳製品に惹かれた原点

株式会社七富乳業は富士宮市を拠点に、自社製造によるチーズやソフトクリームなどの乳製品を展開し、地元の酪農家から仕入れた生乳を活かした“フレッシュで個性のある味わい”を強みに事業を展開しています。富士宮市内の「七富チーズ工房直売所」と、静岡市清水区の「七富チーズ 静岡店」の2拠点を中心に、直売・卸売の両面で事業を行っています。
私が乳製品に興味を持ったきっかけは、北海道の大学に通っていた頃に出会ったアイスクリームでした。もともとは高校の先生になりたいと思い、教育学部へ進学しました。実家が農家だったわけでも、酪農に関わる仕事をしていたわけでもありません。地元は愛媛県で、父も公務員でしたので、今の仕事とはまったく違う環境で育ちました。ただ、北海道で暮らす中で、おいしい牛乳や酪農の現場に触れる機会が増えていきました。牧場をまわったり、乳製品を味わったりする中で、「乳製品って面白いな」と感じるようになったんです。最初に強く惹かれたのはアイスクリームでしたが、そこから牛乳、チーズへと興味が広がり、いつか自分でもチーズを作りたいと思うようになりました。
教育学部から見た酪農と六次産業化
教育学部に在籍していたこともあり、酪農そのものを学ぶというよりは、教育の視点から酪農に関わっていました。たとえば、子どもたちに乳搾りや酪農体験を提供しながら、同時にアイスや乳製品の加工にも取り組む事業者さんがいます。いわゆる六次産業化と酪農教育を組み合わせたような取り組みです。私はそうした活動を、教育学の観点から研究していました。
最初は本当に学校の先生になりたいと思っていたのですが、北海道でさまざまな酪農の現場を見ていくうちに、気持ちは一気に「アイス屋をやりたい」という方向へ変わっていきました。
学生時代には、友人と一緒にアイスの販売を始めました。大きな設備投資をして店舗を持つのではなく、作ってもらった商品をイベントで販売するような、小さなスタートです。当時は今ほど学生の創業が一般的ではありませんでしたが、できる範囲から少しずつ始めていきました。北海道では何百種類もの牛乳が作られていたので、牛乳パックを集めながら、ひと通り飲み比べたこともあります。牧場ごと、地域ごとに味が違う。その違いを知ることが、乳製品の面白さにさらに引き込まれるきっかけになりました。
チーズづくりへの転機

大学卒業と同じ頃、大学の中でチーズとレストランに関わる事業が始まりました。酪農家さん、先生、そして私たちで新しい会社を立ち上げ、そこから本格的にチーズの世界へ踏み込むことになりました。アイスはとても面白い一方で、冬場に売れにくいという課題もありました。乳製品は、アイスだけでなく、チーズやさまざまな形に変えることで、お客様に届け方を変えられる。そこに大きな魅力を感じました。
その後、ある程度事業が形になってきたタイミングで、「もっと自分の意思でやってみたい」という思いが強くなりました。自分で独立し、自分の考えでチーズづくりに取り組みたい。そう思い、全国の酪農地帯を見てまわりました。
富士宮を選んだ理由
創業をする候補地は一つではありませんでした。千葉のいすみ、宮城の蔵王高原、栃木の那須、北海道、そして地元の愛媛など、いろいろな地域を見てまわりました。富士宮に来る前は、北海道のチーズ工房で働かせてもらい、その後、朝霧の牧場で1年ほど働きながら創業の準備を進めました。富士宮には縁もゆかりもありませんでしたが、実際に暮らしてみると、とても住みやすいまちだと感じています。食べ物もおいしく、生活もしやすい。新幹線の駅までは少し距離がありますが、そこまで行けば東京にも出やすいです。結婚して子育てもしていますが、暮らしやすさを実感しています。
富士宮に大きな可能性を感じた理由は、酪農の環境と市場の両方にチャンスがあると思ったからです。北海道はもちろん酪農のイメージが強い地域ですが、冬は雪が積もり、牛が牛舎の中で過ごす期間も長くなります。一方、朝霧周辺では放牧の風景があり、牛がのびのびと暮らしている印象がありました。また、富士宮や静岡県内には酪農があるにもかかわらず、地元の飲食店が気軽に使える価格帯のチーズがまだ少ないのではないかと感じました。観光客向けの商品はあっても、地元のレストランやイタリアンで日常的に使ってもらえる静岡県産チーズには、まだ余地があるのではないか、そう思ったことが、富士宮で創業する大きな理由になりました。
現在、直売所には地元のお客様が多く来てくださいます。1日20人前後のお客様が来てくださることもあり、常連の方も増えました。長期休暇には関東や山梨、神奈川方面からのお客様もいらっしゃいますが、基本的には地元の方に支えていただいています。
お客様と話す時間が支えに
創業してから最初の数年間は、本当に一人で製造から出荷、事務作業まで行っていました。日々の製造に追われる中で、休む時間も勉強する時間もなかなか取れませんでした。その時に支えになっていたのが、土日に直売所でお客様と話す時間でした。平日は一人で黙々と作業することが多いので、土日にお客様とチーズの話をしたり、地元のことを教えてもらったりする時間が、自分にとっては癒しのような時間でした。差し入れをいただくこともあり、地域の方の温かさを感じることが多かったです。
富士宮の方は穏やかで優しい方が多い印象があります。創業して不安もある中で、そうした地域の人柄に助けられた部分はとても大きかったと思います。
七富チーズのこだわり

七富チーズの特徴は、フレッシュでやわらかく、牛乳をそのまま食べているようなモッツァレラにあります。私たちのモッツァレラは賞味期限が長いものではありませんが、その分、とてもフレッシュで、やわらかく、ジューシーな味わいを大切にしています。地元の飲食店さんに使っていただきやすい価格で卸すことも意識しています。味と価格の両方で、地元の料理人の方々に選んでいただけるチーズを作りたいと思っています。
現在は、主に佐野牧場さんの牛乳を使わせていただいています。朝は7時頃から牛乳を取りに行き、そこから製造、包装、梱包、出荷までを行います。夕方4時の集荷に間に合わせるため、平日はチーズを作って出荷する毎日です。その後、土日に向けた直売所の商品や、翌日の仕込みの準備を行います。繁忙期には注文が集中することも多く、大変ではありますが、自分がやりたくて始めたことなので、大きなストレスはありません。むしろ、思い描いていたチーズづくりに取り組めていることにやりがいを感じています。
事業の広がりと静岡店

日々の製造や出荷に追われながら、どうすれば事業を安定させられるのか、どうすればもっと多くの方に七富チーズを知っていただけるのかを考え続けてきました。
大きな転機になったのは、富士スピードウェイホテル内のイタリアンレストランとの取引でした。静岡市の料理人の方から紹介を受け、総料理長が直売所まで訪ねてきてくださったことがきっかけです。その後、週にまとまった量のチーズを出荷するようになり、売上の安定にもつながりました。地元の飲食店さんとの取引ももちろん大切ですが、シェフの方に見つけていただき、料理の中で七富チーズを使っていただけたことは、事業を続けるうえで大きな自信になりました。
七富チーズは、現在、飲食店への卸や販売店への卸も行っています。飲食店では、県内で週に10軒ほど、販売店では5〜6軒ほどに卸しています。
静岡店で広げる食べ方の提案
2024年9月には、静岡市清水区に「七富チーズ 静岡店」をオープンしました。
静岡市には2021年から毎月、イベント出店しており、もともとお客様が多くいらっしゃいました。また、静岡方面の飲食店へ卸すための配達拠点としても活用したいという思いがありました。静岡店では、チーズの販売だけでなく、ソフトクリームも提供しています。私自身、学生時代からアイスクリームに興味があり、北海道で出会ったおいしいソフトクリームの記憶をもとに、富士宮の牛乳に合う味を調整しながら作っています。
最近は、ソフトクリームにトッピングを加える「夜アイス」のようなスタイルも広がっていますが、静岡店ではチーズとソフトクリームを組み合わせたメニューにも力を入れています。また、今後はピザなど、チーズを使ったフードメニューにも取り組んでいきたいと考えています。七富チーズは基本的にはご自宅で楽しんでいただく商品ですが、店頭で「こういう食べ方をするとおいしいですよ」と提案できる場所にしていきたいです。
支援を受けて

令和7年3月に商工会へ加入し、支援を受けることとなりました。
支援の中でも特に大きな柱となったのが、静岡県の「経営力向上事業費補助金」の申請支援です。この補助金では、製造環境の改善を目的として、冷蔵設備の導入やエアコンの設置、さらに製造室の壁面改修など、衛生環境と生産効率の両面を改善するための設備投資が対象となりました。申請にあたっては、事業計画の整理から書類作成、内容のブラッシュアップまで細かくサポートが行われ、複数回にわたる確認・修正を重ねながら申請書を完成させています。特に、日々の製造と出荷に追われる中で、こうした書類業務を一人で正確に進めるのは大きな負担となるため、商工会側の伴走支援は実務面でも精神面でも大きな支えとなりました。その結果、製造設備の改善が実現し、生産能力の向上や作業効率の改善につながっています。これにより、これまで断らざるを得なかった注文にも対応できるようになり、売上機会の拡大にも直結しています。
静岡伊勢丹チャレンジショップへの出店支援
もう一つの大きな支援が、静岡伊勢丹で開催された商工会チャレンジショップへの出店機会です。弊社は過去に「ふじのくに新商品セレクション」で最高金賞を受賞した実績があり、その評価を背景に百貨店での出店機会を得ていましたが、商工会加入後は改めて正式な形で出店支援を受けることとなりました。この出店は単なる販売機会にとどまらず、一般消費者への認知拡大や、既存商品の評価を直接得る場としても機能し、今後の商品展開やブランディングにもつながる重要な経験となっています。
多方面の方との出会いが支えになった日々
創業を振り返ると、事業の成否は技術やアイデアだけでなく、支援機関の存在、取引先との出会い、そして日々の顧客との対話、そのすべてが積み重なり、現在の七富乳業を形づくっています。平日は黙々と製造・出荷作業に追われる一方で、週末にお客様と直接会い、チーズの話をしたり、差し入れをいただいたりする時間が大きな癒しになっていました。人と話すこと自体が気分転換になっていましたね。
静岡店のオープン以降、「富士宮の店舗は閉めてしまったんですか」という声を耳にする機会が増えましたが、実際には、富士宮の店舗は現在も営業を続けており、営業体制が変わっただけで事業そのものが縮小したわけではありません。土日営業を中心に富士宮の直売所は継続しており、主に家族が店頭に立ちながら運営を続けています。一方で自分自身は静岡店に立つことが多くなりましたが、富士宮・静岡の両拠点で役割を分担しながら事業を展開しており、どちらも七富乳業にとって大切な販売・接点の場であり続けています。
これから創業する方へ
これから創業する方には、まず相談してみることをおすすめしたいです。
私自身、富士宮に移住して創業するにあたり、市役所の方や支援機関の方に相談しながら進めてきました。創業時には県の創業補助金も紹介していただきましたし、今回も商工会を通じて補助金の支援を受けることができました。創業は、資金調達や設備投資、販路づくり、日々の業務など、やらなければならないことが本当に多いです。一人で抱え込むと、どうしても視野が狭くなってしまいます。だからこそ、商工会、商工会議所、市役所、金融機関など、相談できる人に早めに相談することが大切だと思います。
富士宮は、食材や自然環境に恵まれ、関東方面からの人の流れもあります。地域の方も温かく、私にとっては創業しやすい環境でした。業種によって事情は違うと思いますが、相談できる環境があることは大きな強みです。まずは自分のやりたいことを言葉にして、相談してみる。そこから必要な支援や制度につながることがあります。私自身もそうして事業を続けてこられたので、これから創業する方にも、ぜひ一歩踏み出して相談してみてほしいです。
事業者情報
- 店名:七富チーズ工房直売所
- 住所:〒418-0114 静岡県富士宮市下条487−1
- 電話番号:070-8534-4772
- 営業時間:10:00~16:00(土曜・日曜)
- 定休日:平日、祝日
- ホームページ:https://nanatomicheese.shopinfo.jp/
- ネットショップ:https://nanatomi.thebase.in/
- 店名:七富チーズ 静岡店
- 住所:〒424-0916 静岡市清水区蛇塚311-1(イチゴロード沿い)
- 電話番号:070-8534-4772
- 営業時間:11:00~16:00(土曜・日曜)
- 定休日:平日、祝日